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路上観察委員会 in Dresden, Germany
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イタリアを3週間ほどめぐった後、友人と別れて私はローマからパリに向かった。パリでは他の友人と合流する予定になっていた。

エール・フランスの機内では日本人団体客の真っ只中に座っていたのだが、上野出身だというおばさんに世話を焼かれてしまった。当時私は21歳で、そんなお嬢ちゃんが一人で乗っていたら世話もしたくなるというものだろう。

到着したシャルル・ド・ゴール空港はひたすら広大で、しかもフランス語の本場おフランスであるということが余計な恐怖心を煽る。とにかくパリの街に向かわなければならず、そのためにはこの空港から出なくてはいけない。シャトルバス乗り場には、やはり一人旅の日本人が数名いて、みな同じ悩みをかかえていた。とりあえず乗り込んでみたもの、空港内循環バスらしく、さきほど聞いた名前がまた聞こえてきた。

さて、いよいよ真剣にパリに行くバスを探さなくてはいけなくなった。フランス語を高校3年生の時に選択課目として1年勉強したものの、すっかり忘れ去っていた私。何人か集まれば大学でフランス語を選択している人もおり、果敢にフランス人に聞いている。それだけで、尊敬に値する。北駅に行くことは全員一致していた。

Gard du nord…これが北駅。子音が5つ連続していようと、とにかく語尾まできっちり発音するドイツ人とは国境を接しているとはいえ、フランス人は語尾を読まないのは周知の事実。「ギャー・ドゥ・ノー」しか聞こえない私には、ますます「だからフランス語は言葉に聞こえない」と諦め感が漂う。

バスに乗り合わせた金髪の若いフランス女性は、感じがよく英語が堪能だった。これだけでも1993年頃の通常のパリ人を考えると稀なること。一緒に乗り込んだ運命共同体ともいえる日本人旅行者たちはそれぞれホテルの場所について質問していた。どうしたわけか、北駅でバスを降りた後、彼女は私のホテル探しを手伝ってくれることになった。

パリで合流する友人との待ち合わせ場所として、馴染みの旅行業者にパリのホテルだけ予約してもらい、その詳細をファックスで送ってもらっていた。ワープロが流布し始めていた時代であったが、そのファックスは手書きだった。

ホテルが面する道の名前は以下のように書かれていた。

 

Cour de la Ferme

Saint-Lazare

 

地図にマークされたホテルの場所は北駅からすぐ近くなのに、この金髪の女性は「あら、この地図は間違っているわよ。地下鉄のHotel de ville駅が近いわよ」と言った。「10枚チケットを買うのを手伝いましょうか?」と言ってくれたのですがりつくようにお願いした。

笑顔の綺麗なお姉さんは流暢な英語で私を地下鉄の改札口で見送ってくれた。

パリの地下鉄の案内は日本のように止まる駅名が散発的に複数書いてあるのではなく、向かう方向の終点の名前だけが表示してある。それはガイドブックで予習してあったのだが、まさかパリ到着直後に地下鉄に乗らねばならぬ事態になるとは予測していなかったので、心の準備がしていない…そんなことは言っていられず、15キロの大きなバックパックと入りきらなかった荷物を入れた手提げ袋をかかえ、私は一人格闘。

人間、頼るべき人がいないと俄然強くなるもの。

「あ、私、この大都会パリでたった一人なんだ」

地下鉄の駅の通路は細く狭く曲がりくねり、多くの人がせわしなげに行きかう迷路のよう。

乗り換えまでして、私はHotel de ville駅の地上に出た。

壮麗な建物が立ち並ぶにぎやかな場所。ドドーンと大きな建物が目の前に現れ、振り返ってもルネサンス様式の建築(実はパリ市庁舎)。ますます分からない、ここはどこ?!

適当に通りかかったカフェのギャルソンに英語で聞いてみた。フランス語でベラベラっと返され、まるで助ける気なんかサラサナないぞ、という目も合わさぬ無関心なお兄さん。冷ったいこと。

フランス語ができぬ人間なんか相手にできぬわい、という風潮がまだ健在だったこともあるのであろう、その最初の打撃をここで受けた。途方に暮れ、さてどうしたものか?とがっくり肩を落としていた私。

もしかして、この初めての知らない土地で私は本気で迷子になったのか?という自覚がじわりとくる。口の中がかすかに乾き、あぶら汗を感じる。しかし、そのカフェの窓際の席にいた二人のフランス人マダムのうちの一人が私を見ていて、一緒にいた友人に何か言っているのが視界に入った。

捨てる神あれば拾う神あり。あのマダムは私を助けようとして、友人に「ちょっと待ってて。あの外国人の女の子を助けてくるわ」と言っているに違いない、と期待した。果たしてマダムはサングラスをかけながら出てきてMay I help you ?ときれいな英語で話しかけてきた。このマダムの優雅な余裕!そして貫禄。

待っていました、すかさずホテルの案内が書かれた紙を見せる。

「ふーむ…」とマダムは読んでいる。すべての通りに名前がついているが、すべての通りがシャンゼリゼ通りのように有名であるわけではない。

「この電話番号はおかしいわ。ケタがあってないもの」と言われて、絶望的な気分になる。地図も違うと言われ、今度は電話番号が違うらしい。

「問題だわ」と私が言うと、マダムはうなずきながら「そう、あなたは今、大変なプロブレムなのよ」と。

街角にあったキオスクのおじさんに何やら言っている。どうやら、道の名前が全て掲載されているガイドブックを所望しているらしい。しかし、さすがはパリのマダム。売り物であろうがお構いなし。

「恐らくこれだわ」と言って、紙に行き方を書いてくれる。しかし、フランス人の書くアルファベットは日本人のそれとは違い、戸惑う。どこまで障害が多いのだ!

「正しいかわからないけど、とにかく電話をしてみなさい。テレフォン・カードを買うのを手伝って欲しい?それとも自分でする?」と聞かれ、間髪入れずにplease help me !と最後まですがりつく私。ここまでくると見捨てきれないらしい、という笑顔をマダムはみせた。

Good luck !とマダムは言って、友人の待つカフェに戻っていった。

地図も電話番号も間違っていると言われ、先ほどのお姉さんはHotel de ville近くだと言い、マダムは別の場所だと言う。

すっかり混乱した私は何を思ったのか道行くおじさんにいきなり聞いてみた。紙を見ながら「サン・ラザール…?サン・ラザール駅はここじゃないよ!」と驚いている。

とりあえず礼だけ言い、ガラス張りの電話ボックスに入る。すでに日本は午前をまわった時刻であるが、最後の頼みの綱は親しかいないので国際電話をかけた。娘が夕刻迫るパリで迷子、となればほうっておくこともできず電話をかけるなど奔走してくれた。再度電話をかけてみると「ファックス用紙に書かれている電話番号でホテルにつながる」とのこと。

なぜパリ中をあちこち動き回る前にホテルに電話しなかったのか?と責められたが、冷静さを失っていたとしか言いようがない。日没までにホテルを探さなくては、という余計な焦りもあった。

ホテルに電話してみると、私が持っている地図は正しく、やはり北駅の近くだと言う。「東駅(Gare de l’est)で降りて」という英語での説明までは分かったのだが、「○×出口を出たら△○通りに出ます」と地名や通り名を正しいフランス語で言われるとさっぱり音に聞こえない。やっぱり、地図にある通り東駅で正解のようだ。とにかくその駅まで行こう。

気を取り直してふりだしに戻る。

地下鉄の車内はほどよく混んでいた。重く大きな荷物を抱えた私はドア近くに立つ。ドア周辺の椅子は折り畳みになっており、混んできたら人々は自主的に立ち上がって椅子を畳むのだが、私の目の前のカップルは立ち上がらない。男性は膝の上にカノジョを座らせていて、満員電車の片隅でキスを始め、そのキスに女性が応える。男性の手がゆっくり女性の体の上を移動する。最初、私は目の前で繰り広げられているこの光景に気付かなかった。朝、ローマでつけてきた口紅は夕方近くのパリでほぼ剥げ落ちてしまっていた。

地下鉄を出るととっぷり暮れていた。横断歩道でフランス人のおじさんにMay I help you ?と聞かれた。しかし、ホテルと連絡がとれ場所を把握できた今、私は嬉しい自信に満ち溢れていた。「ありがとう。けれども、ホテルが道順を教えてくれたので大丈夫」と答えた。

難なくホテルを見つけた。レセプションの女性は「最初に電話すべきだったのよ」と笑っている。

通りの名前はやはりCour de la Ferme Saint-Lazareであった。日本の旅行業者がSaint-Lazareを次の行に書いたために、パリの人々でさえ勘違いをした、それだけのことであった。それだけのことだったのに、私は初パリで大冒険をしてしまった。

ホテルの名前は忘れてしまったが、この通りの名前だけは10年以上経った今でもはっきりと覚えている。ほんの十数メートルの細い脇道なのに。

(1993年3月のイタリア・フランス旅行より)

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ライター、ジャーナリスト(建築系)
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横浜育ち、現在ドイツのドレスデン在住。
専門分野は建築史(住宅史)。

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■ドイツ在住日本人向け情報誌ドイツ・ニュース・ダイジェストの「私の町のレポーター」のライター
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