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路上観察委員会 in Dresden, Germany
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このところ、グランド・ピアノ探しがホットな私。

4歳から始めたピアノだが、その存在は知らず知らずのうちに体の一部のようになってしまい、ドレスデンに引っ越してからはピアノの不在に耐えられず、東ドイツ製Alexander Herrmannの中古ピアノを買った。まさか自分でピアノを買うなんて思いもしなかったが、今度はグランド・ピアノのお買い物に躍起になっている。

さすが音楽の本場ドイツだけあり、ドレスデン内のピアノ屋をめぐっているだけで、名前だけは聞いたことのあるピアノやまったく知らなかったピアノに次々と出会う。ドレスデンにもいくつかピアノ工房があり、そこのピアノ職人の名前を冠している。日本製のピアノに触れている限り、ピアノは工業製品というアタマで「車とピアノは新しいほうがいい」と思うのだが、有名な一流メーカー製から町工房製まで値段・音色・タッチまで幅広い違いを見せつけられると、ピアノはやはり楽器であり職人によって支えられていることを思い知らされる。

様々なことが重なった結果、ベヒシュタイン(以下ベヒ)に最大関心を寄せた私。特にベヒは古いものにいい音色が宿っていることが多いのだが、今回のパトロンである父親から「ピアノは新品を買うこと」と釘を刺されている。金も出すが口も出す。

中古ピアノを買ったピアノ屋がベヒを扱っていることもあり、ショールームにて中古を弾かせてもらった。新品について尋ねたら、近いうちにベヒの工場から運搬しなくてはいけないから一緒に行かないか、とのオーナーからのお誘い。そこなら新しいピアノが沢山あるから試せる、というわけ。当たり前だ、工場なのだからそこで作っているのだもの。どの店に置いてあるベヒよりも新しいに決まっている。

 

6時にピアノ屋のライトバンに乗せてもらい東へ向かう。「いやあ、ベヒシュタイン専用のクリーナーが欲しいっていうお客がいてね。本社に問合わせても、普通に日曜大工の店で売っているものでいいって言うんだけど、失敗したくないんでしょうね」とのっけから呆れる話をしてくれるオーナー。

ドレスデンから約60キロ、半分ドイツ半分チェコという村ザイフヘンネルスドーフ(Seifhennersdorf)へ。どこにでもありそうな村だが、いきなり比較的大規模な工場が建っている。ピアノについている御馴染みの王冠マークにBECHSTEINの文字がなければパン工場にも見える。

以前、この工場でも職人として働いていたことのあるオーナーは当然ここでは知り合いも多く、まるで自分の家のように受付に挨拶を済ますとピアノ製作の全工程を案内してくれた。

外注鉄フレームの穴開けは機械作業だが、ベニア板に糊付けをして大の男7名ほどで型に入れてボルトで締め上げる作業はすべて人力。このあたりはまるで工事現場のドカタのおっちゃんたちによる力仕事。ピアスとタトゥー率も高い。落ち着くまで一定期間このピアノの枠を寝かせておく。

響音板は板に棒っきれがはりつけてある地味なパーツだが、これがピアノの命らしく音の伝わり方を丹念に教えてくれる。これも手作業。各パーツが所狭しと整然と並んでいる脇を通り過ぎる。塗装室は圧巻、というのもエエっ、手作業!?ジェット噴射のノズルを持っているのは職人。ピアノは黒が多いために、部屋の床もいたるところ真っ黒。

次第に純粋な力仕事ではなくなり、女性職人が増える。様々なサンドペーパーがあると思ったら、パーツの研磨作業。まず機械で研磨するのだが、その後の仕上げは手作業。膨大なサンドペーパーが散らかる。

弦を留める無数のピンを刺す作業はかつて手作業だったらしいが、今はコンピューター制御による作業。弦張りは頑固おやじ風の職人が1本ずつ張って荒締めは機械、その後の仕上げは手作業。

作業はさらに細かく複雑になる、つまりハンマーと鍵盤とその周辺の無数のパーツの組立てと調整作業。ここからは全てが手作業で、極めて根気のいる細かい仕事。鍵盤の重さを分銅で調べ、ハンマーが3本の弦に同時に当たっているかを調べ、ハンマーを支える細い棒が一様に上に上がるかを調べ…微調整は1ミリの10分の1以下の2種類の紙を張って行う。職人の手の感触だけがベヒのタッチと音色を左右するのがよく分かる。

なるほど、職人23人が働くピアノ工房がただそのまま規模を大きくしただけだということが分かった…。

 

事前に弾いてみたいピアノの希望を伝えてあったので、まだ鍵盤のフタも鍵盤の前の板もついていないようなフレッシュなグランドピアノをサウンドチェック用の部屋に準備してくれていた。その他、工場隣接の大きなホールにも様々なグランドピアノがずらりと並べられており、「どれでも好きなものを弾いていいよ」と言われ、ズに乗ったワタシ。

 

帰りの車中はピアノ談義でオーナーと盛り上がる。音色もともかく、外見にもこだわってみる。実家のヤマハのアップライトはマホガニー製の自然仕上げ、今使っているピアノも同じような外見。とかくツルリとした黒いグランドピアノは気に入らない。しかしなぜかこれが「グランドピアノの標準」になっている。「ステキなマホガニーもありますよ」と客にすすめても「いや、黒がいいんだ」と返答する客が多いという。あんなに図体の大きなものが真っ黒だなんて…家具屋で同じくらいの体積の黒い家具なんか探すほうが大変なはず。建築をやっている人間としては、そのへん譲れないので多いに主張してみた。

「今までで仰天するような注文は何でした?」と興味から聞いてみた。「うーん、メタリックシルバーのピアノを注文したお客がいたねえ」と。部屋の家具は全てメタリックシルバーだったので、ピアノもお揃いにしたというわけらしい。基本的に、どの色も注文可能なのだという。ピンクのベンツが走っていないように、物にはそれなりのステイタスがあるからピアノに黄色やピンクもないらしい。「しかしね」とオーナー。「東ドイツ時代には、政治的理由もあって赤いピアノがかなり作られたんだよ。統一後はロシアとかベトナムに流れているはず」。なるほどね。

「鍵盤をマンモスの牙でっていうのもあったねえ」…象牙じゃなくってマンモスだよ、と念を押すオーナー。「それは不可能でしょう」と言うと「可能です。ロシアの凍土からはマンモスが出てくるから、あの牙を買えるのです」とのこと。シベリアから発掘される氷漬けマンモスはいわゆるケナガマンモスで、200万年~1万年前あたりのものだろうか。アホな、と思うが地面掘り返して大昔のものを使うというコンセプトであれば、宝石も石炭も石油も同じ。

 

作業途中のグランドピアノの中には古典的な装飾を施されたものもいくつか見受けられた。他社のカタログにも「クイーン・アン」「ルイ16世」「フランツ・シューベルト」などその人物の時代の様式が取り入れられているものがある。それと同時にモダンなデザインも同時進行で、ベーゼンドルファーにはポルシェ・デザインがある。ミニマリスムすぎるデザインでは、せっかくの暗譜が飛びそうだと思うし、だいたい音楽の表現にも影響を与えそうだ…ロマン派なんか演奏できないぞ。それは逆もありで、くにゃりと曲がった足のついたピアノではシュトックハウゼンは弾けない。要は、ピアノを選ぶ時には400年間のデザインの中から選べるということなのだが…オットー・ワーグナーの「芸術は必要にのみ従う」という機能主義の主張はまだしも、アドルフ・ロースの「装飾は罪悪である」とまで言われてしまうと、一応建築の歴史を本業としてきた身としては新品のピアノを注文する際には「選択してはいけない」デザインがいくつかあることになる。

ああ、ツヤ仕上げマホガニー製のグランドピアノが欲しい。

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ダイナミックな演奏
ふーん、そうだったんだあ、よーこさんのダイナミックな演奏、たくさんのベヒで聞いてみたかったよ、朝早くて大変だったでしょ
yoko uchida 2007/09/27(Thu)08:49:00 EDIT | RES
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ライター、ジャーナリスト(建築系)
自己紹介:
横浜育ち、現在ドイツのドレスデン在住。
専門分野は建築史(住宅史)。

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■ドイツ在住日本人向け情報誌ドイツ・ニュース・ダイジェストの「私の町のレポーター」のライター
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